孫が祖父にできること〜じいちゃん観察記〜
転職してから全く使っていなかった有給休暇を初めて使って実家に帰っている。 入院した母親の代わりに祖父の世話をする必要がある。平社員で入った一族大会社で専務にまで登った祖父は、足は悪いものの頭ははっきりした95歳。
年々頑固になりながら、命令はするものの自分は足が悪く動きにくい、でも美味しいものは食べなきゃだめ。
「それはそっちに置きなさい」「先にそれを片付けなさいっ!」
『うん、わかったから今履かせてるパンツまず履こうか』
面倒を見るレベルを下げる事はできる。要介護認定があるからヘルパーさんでも掃除洗濯食事介助はしてくれる。老人ホームに入れる事もできる。ただ、自分の建てた家にいたい。やりたい事をやりたい。老人ホームを見学に行き自分より20歳くらい若い高齢者がぼーっと座っているロビーを見て絶句している祖父を見て、一緒にいる家族はやっぱりできるだけ彼に幸せな環境を提供しようとまた頑張り疲弊する。
本人も家族も思い通りにならず、イライラは溜まり、不満は爆発する。いろんな家庭で介護の大変さが問題になっていると思う。
歳をとるとなんで頑固になり、怒りっぽくなり、批判するようになるんだろう 自分はこうなりたくない。「まーええんちゃうか〜」ってあほなこと言ってるような人間でいたい。
面倒を見ながらストレスも貯めながら、よくよくじいちゃんを観察してわかってきたこともある。これは問題の根本は年齢じゃない、不自由じゃない。自己主張がしたいんじゃない。そもそも本人が変わったんじゃない。周りが変わったんだ。
外食が好きだ。外で食べたい、美味しいものが食べたいだけじゃない。普通の人として環境に存在したい。お店で丁寧に扱ってもらいたい。自分の存在をリスペクトして欲しい。お荷物だったり邪魔な存在なはずがない。
ちょっとその辺のものも持って帰りたい。何かちょっとでも得したい。経済価値のあった人間になりたい。これを持って帰ってしまっておけば自分は少しは経済的に価値のあることしたんじゃないか?
きっとね、ほんのちょっとした存在感を出したい主張がずれて外に出てるだけなんだ。
じいちゃんに厳しい現実を見せる事件が起きた。
レストランのウエイトレスがじいちゃんを見て話さない。何か話しても分かりにくいので、迷惑に困った顔をして付き添いの孫に向かって話す。
このウエイトレスは誠実さが足りん、未熟なんじゃないか?私がちゃんと目を見て話してやるっ!おい、なぜこっちを見ない!孫と話さなくても私の言うことを聞きなさいっ!
この店員の対応がおかしい。閉店時間を聞いただけで答えられないなんて。考えられんっ 閉店時間なんて誰でも答えられるだろうが、みんなもっとニコニコ受け答えするものだぞ? プロじゃないのか?ほら隣のママさん集まりですらできるぞ?
ただの客のママさんにも声をかけてしまった。閉店時間を聞きたかっただけだ。
嫌な予感は的中した。身なりの整った車椅子のじいさんが笑顔で寄ってきて声をかけたら、ママさん達は「変な人に声かけられた」と言わんばかりの表情をしながら、子供達に何かないか心配までしそうな勢いだった。ちゃんと管理しなさいよと言わんばかりに孫をにらんだ。
彼はしょげた。いつもはウエイトレスとヘルパー、ホテルマンと話してそれなりに敬語で大事にされていた彼は、普通だと思う人々から自分が一般人じゃないような目を受け、家に帰って布団に着くまで、なにも話さなかった。
高齢者がどんどん怒りっぽくなり、どんどんセコくなり、どんどん知らない人にも主張し始めるのは、周りのせいかもしれない。寂しいんだ。存在意義と存在価値を少しでもかき集めたいだけなんだ。普段からやらなくなり不器用にしか表現できないけど。
子供が突然話しかけてきたら、みんな笑顔で聞いてあげるはず。きっとそれが同様に必要なんだと感じた。高齢者への対応を「避ける」しかできないんだ。
その「避ける」が一番彼らを寂しいスパイラルに落とし込んでいる。
面倒見る方は楽だが、逆に自尊心を完全に失い、ずっと、ごめんなさい、ありがとうって言ってる高齢者の姿が幸せなんだろうか。
これでもかってくらい興味を持ってあげる事が必要なのかもしれない。これでもかってくらいその人の魅力を見つけて、その人に感謝してあげることが必要なのかもしれない。
なんのことはない今だって自分が欲しいと思ってることだ。仕事選びだって、パートナー選びだって、みんな自分の存在意義と存在価値を見つけてもらいたいんだ。
とすると、一つ間違いない存在意義がある。彼がこの世にいなければ自分がいない。自分が存在するのは彼のおかげだ。それは間違いない。
ちょっと明日トライすることが決まった。気づくまでしつこいくらいに届けてやる。
俺の今の存在価値は全てあなたの存在の上にあり、俺のもまとめた価値があなたの存在価値だ。こっちは目下存在価値の製造中だ。価値の源泉はあんただ。
あんたが外に作った存在価値の歴史をあなたの自尊心になるまで伝えよう。
簡単なコミュニケーションだ。
ネタなら俺が生きてきた長さ分だけある。